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ATF加速器の詳細(2)

高精度ビーム計測技術開発(4)




  1. 取り出されたビームのビームサイズを高分解能で 計測するビームサイズモニター

4-1:タングステン(カーボン)ワイヤーモニター

取り出されたビームのビームサイズを高分解能で計測するタングステンワイヤーモニターです。 これはビームサイズを計測するためにビームに非常に細いタングステンワイヤーをかざすのですが、 ビームを取り出す度にワイヤーを順次動かしていって、 後方に散乱されるγ線の強度をタングステンワイヤーの位置を横軸にとってプロットすると ビーム強度の分布が測定できます。その分布の幅がビームサイズとなります。 タングステンワイヤーは10μmという非常に細いものが製作できかつ融点が高いので ビームとの衝突での温度上昇に耐えられます。しかしGLCのようにATF以上のビーム強度の場合 タングステンワイヤーは切れてしまいます。さらに切れにくく細いものが可能なのがカーボンワイヤーです。 ATFのワイヤースキャナーでは両方のワイヤーが使用されていて耐ビーム強度特性を試験しています。 なお、GLCの主リニアックではカーボンワイヤーでも切れてしまうほどのビーム強度ですので レーザーワイヤーを使用しなければなりません。 ビームサイズ測定は何十回かの取り出された別々のビームに対して行われますので、 毎回の取り出しビームが一定で安定でなければ正確な測定とはなりません。 ATFの取り出しビームの位置安定性は3〜5μmですので測定ビームサイズ5〜20μmに対しては それほど大きな誤差はあたえません。

4-2:遷移放射光ビームサイズモニター

電子ビームが金属などの境界を通過するとき、 その電場により金属境界面の原子を分極させ電磁波放射を引き起こします。 その可視光領域の放射を遷移放射光と呼びます。 遷移放射は電子ビームが金属境界に入るときその反対向きに、 そして金属境界を出る時同方向に起こります。 金属境界をビーム進行に対して45°傾けると90°方向に放射が起こり、 光を容易に引き出す事ができます。 この放射の発光機構から考えますとビームサイズの情報をもって発光していますので、 発光点を拡大撮像する光学系を使用するとビームサイズの測定が可能と考えられます。 理論的には発光点はあるボケをもっていて高分解能サイズ測定には向いていないという予測もされています。 そこで遷移放射光によるビームサイズモニターの可能性をさぐるため、 2μmの分解能で拡大撮像が可能な光学系を組み、 表面を平らに磨いたシリコンターゲットをビームにかざす遷移放射光ビームサイズモニターを設置しました。 ATFの取り出しビームのビームサイズ測定を試み、 近傍のワイヤーモニターの結果と比較しましたところ、5μm程度のビームサイズまで 正確に測定可能である事がわかりました。 残念ながらこのモニターはビームに対して破壊的測定となりますので、 大強度のビームには向いていません。

4-3:回折放射光ビームサイズモニター

遷移放射光ビームサイズモニターは電子ビームがターゲット中を通過するため ビームに対して破壊的となり実用的なモニターとしては不利なものですが、 同様の発光機構を使用しますがターゲットがビームに直接触れなくするものが 回折放射光ビームサイズモニターです。 ビームを両側から挟み込むようにターゲットを近づけていきますとビームの持つ電場により ターゲット端面から放射光が発生します。これを回折放射光と呼びます。 この回折放射光からビームサイズの情報を得るためには十分遠方にて両方からの放射を重ね合わせた 放射角度分布を測定し、分布の特徴からビームサイズを計算します。 精度よくビームサイズを計測するためにはターゲットの端面精度、表面粗度、両ターゲットの 面平行度や端平行度などを高精度に作製する必要があります。そして、ターゲットが45°に 設置されるため上流で発生するバックグランドシンクロトロン放射光が 必ずビームライン上に紛れ込んできて角度分布測定系に入り込むため、それを取り除く工夫が必要です。 現在は角度分布測定はミラーを順次回転させていって行うため十数分かかりますので、 その間安定なビームでなければなりません。このモニターの推定分解能は5μmですが、 これを実現できるように開発中です。